石川先生の体験談

ふくらはぎに注目したわけ ~医師・石川洋一

昭和54年のある日のこと、私は脱水症状を起こしていた患者さんの腕に、点滴を投与しようとしていました。ところが、その患者さんの場合、どうしたことか点滴液がスムーズに落ちていきません。針の位置や向きを変えたり、腕の高さを変えたりするなど工夫してみましたが、瓶の中の液は、いっこうに流れていく気配を見せません。

私は思案にくれながら、無意識のうちに患者さんの足をさすっていました。すると驚くことに、点滴液がポタリ、ポタリと落ち始めたのです。そしてふくらはぎの部分がとくに硬くなっていることに気づいたのです。

私はその硬くなったふくらはぎを手のひらでもんだり、さすったりしながらほぐしていきました そうやって柔らかさが出てきたかなと思った瞬間に、青ざめていたほおに赤みが差してきて、緩慢にしか入っていかなかった点滴も、次第に規則正しく患者さんの体内へと送り込まれるようになったのです。

すなわち、最初に点滴が落ちていかなかったのは、患者さんの血管内での血液の流れが悪かったからであり、硬かったふくらはぎの筋肉をもみほぐしたことで血液の流れが改善し、点滴の液もスムーズに落ちていくようになったと考えられるわけです。

しかし、刺激をしたのはふくらはぎ、点滴をしているのは腕なのです。その現象はふくらはぎを揉むだけで、腕や顔の血行までもが促進されるという事実を示していました。この一件をきっかけに、私は「血管や心臓など体を維持する上で重要な循環器系の働きを助長すれば、病気の克服や健康増進に効果が期待できる。それを実現させるには、ふくらはぎの筋肉を整えていくことが最も有効な手段ではないか」と考え研究にのめりこんでいったのです。

(「万病に効くふくらはぎマッサージ」より抜粋)